藤田正彦
一般社団法人中川運河キャナルアート 理事長
「名古屋にも、美しい水辺空間がある。そんな場所を知って、来て、感じて欲しい」。中川運河キャナルアートはそんな思いを持つメンバーが集まった市民プロジェクトとしてスタートしました。
今では、アートイベントやシンポジウム、地域の方々とコスモスを植える取り組みなど中川運河を活性化するための活動をしている団体です。
ささラボ取材班は、キャナルアートの理事長として活躍されている藤田正彦さんに取材しました。中川運河の未来や、キャナルアートの今後のプラン、さらに若者が果たせる役割を語っていただきました。運河でのまちづくりを前編・後編にわたってご紹介します!
前編では、中川運河でのまちづくりの事例を藤田さんに語っていただきます。
中川運河キャナルアートの設立目的と経緯について
Q:昭和初期から1930年代まで地域の水上輸送を担う物流の大動脈として、名古屋の近代化を支えていた中川運河ですが、物流の中心が自動車へと移ってからは、忘れ去られた存在となっていました。なぜ、中川運河に目をつけたのでしょうか?
A:藤田
中川運河キャナルアートの設立は、初代理事長の服部さんという1人の女性が中川運河と出会ったのがはじまりです。
服部さんはニューヨークから名古屋に戻ってきましたが、「名古屋は面白くないまちだ」と感じていたそうです。そんな時、夜に車で走っていたところ道に迷ってしまいました。たどり着いたのが中川運河で、小栗橋から見えた中川運河と倉庫のある景色に驚いたそうです。
運河をはじめとする水辺周辺から新しい文化が生まれることは世界でもよくあることです。名古屋にも、まさにそれと同じような場所があった。時を同じくして、中川運河に魅力を感じ、凄く魅力的な場所になるかもしれないと活動を始めていた今の理事たちが2009年に出会いました。当時、それぞれが行ってきた活動に多少の違いがあっても、ひとつになれると思ったのです。
私たちは水辺とアートをマッチさせて、このまちを盛り上げようと一致したのです。水辺を愛する民間の有志により市民団体「中川運河キャナルアート実行委員会」が発足しました。2012年には法人格を取得し、今の「一般社団法人中川運河キャナルアート」になりました。
しかし、中川運河の存在は名古屋市民にも全く知られていません。さらに、近隣の方々は汚い、危ない中川運河と思っていました。そこで、年に一度、アートイベントを開催し、中川運河の魅力を多くの方々に知ってもらおうと活動を開始しました。そして、ものづくりのまちとしてクリエイティブな人たちが集い、ここから新しいものが生まれるまちにしたいと思ったのです。
中川運河再生計画へ向けて
昔の名古屋駅は旧国鉄の貨物駅であり、名古屋駅は現在のささしま地域にありました。当時、各国・各地域からあつまる木材などの物資を名古屋港から運ぶのは船でした。しかし、堀川だけでは多くの物資を運べません。そこで、昭和初期に人工的な運河として中川運河が掘られました。当時の中川運河は東洋一と言われた大運河です。ですが、物資を運ぶ手段がトラックに移っていき、中川運河の存在は人々から忘れ去られてしまいました。
中川運河沿いは昔から名古屋市の土地で、名古屋港に関わる施設しか建てられない規則で固められていました。そのため、昭和の大運河がそのまま残っています。そのような中、私たちの活動もあって多くの方々が中川運河の魅力を感じはじめてきました。2017年には、名古屋市と名古屋港管理組合が『中川運河再生計画』を発表しました。中川運河沿いを3つのゾーンに分けて見直しを始めています。今では、水上交通としての船の実験もはじまり、運河沿いに飲食店などの出店を募集する動きも始まっています。
解説:「中川運河再生計画」
中川運河の歴史と役割を尊重しつつ、新たに求められる価値や果たすべき役割を見据えた計画。約20年先を見据えた再生構想と、約10年間の取り組み内容で構成されている。
【写真提供:藤田さん】
さらに、日本の有名な観光地・水辺の例として北海道の小樽運河があります。ここには歴史的な建物や風景が残っています。そこに魅力を感じる人が多いと私は思います。中川運河の歴史を伝える倉庫群などの風景を残しながら、魅力ある観光地になれば良いと思います。
私たちが活動していると、古い倉庫の中で結婚式を挙げたい、ショップやギャラリーを開きたい、アーティストとして工房に使いたい、パーティを開きたいなどの声をいただきます。世界には倉庫を利用した事例がたくさんあります。倉庫に最も魅力を感じるのはアーティストです。倉庫で作品を作りたい、発表したいアーティストは多くいます。そうなると、市民は子どもの頃から気軽に芸術に触れられます。それがいいのです。そうして育った子どもたちはクリエイティブな感性が育まれ、きっと豊かな発想力や想像力が身につくことでしょう。中川運河周辺にはそうしたポテンシャルがたくさん眠っているのです。
Q:これらのプロジェクトを通して、地域の方々から頂く生の声や、反応はどういったものですか?
A:藤田
中川運河を花でいっぱいにするコスモスプロジェクト、落書きで汚されたり椅子が壊された公園を復活させるプロジェクト。これらは中川運河に近い愛知大学の学生も参加してくれたこともあります。私は、キャナルアートの活動を通じて、中川運河への愛情を多くの名古屋市民に持って欲しいと思っています。
キャナルアートは2017年に、中川運河再生計画の3つのゾーンのうち「にぎわいゾーン」の研究をすることを名古屋市から受託しました。取材をしてみると、中川運河を汚いと思っていた人の中には、キャナルアートの人たちと接することで、水辺やまちがもっと綺麗になればと願う人が多くいることがわかりました。また、まちの人たちと接する機会として、座談会を開きました。座談会では前向きな意見をたくさん聞きました。しかし、座談会での声は中川運河に関心を持っている人が中心です。そのため、全ての人の声は聞けていません。
イベントに参加する以外に、中川運河のことに関心を持つだけでも、これもまちづくり参加の1つだと私は感じています。
【取材・執筆:ささラボ取材班 三沢壮志・萩原亜里沙】
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